三条の宮におはしますころ(訳)
テキストには角川文庫の『枕草子(下巻)』第225段を使いました。
なお、この訳には私独自の解釈が含まれているのでご注意を。
三条の宮にあらせられる頃、五月五日の菖蒲が積まれた輿などが参上し、薬玉の献上などをした。
若い女房たちや御匣殿などが薬玉を作って、姫宮と若宮のお召し物にお付け申し上げていらっしゃる。
とてもきれいな薬玉が他の所から献上されていたが、一緒に青差(あおざし)という物を持ってきていたので、青い薄様を華やかで美しい硯箱の蓋の上に敷いて
「これが、馬柵(ませ)越しにございます」と献上すると、
皆人の花や蝶やといそぐ日もわが心をば君ぞ知りける
〔すべての人が花よ蝶よと飛び急ぐこんな日でも、この私の心を、あなただけはしっかりとわかっていたのでしたよね〕
この青い紙の端を引き破りあそばして、お書きあそばした。
これよりも素晴らしい事はない。
(2010年9月13日 改訂)