にげなきもの(訳)
毒舌清少納言の代表作のような章段です。
「にげなし」は「につかわしくない、ふさわしくない」と訳しますが、途中で内容が「見苦しいもの」に変遷しているように見えるのですが……
岩波文庫『枕草子』の第45段です。
ふさわしくないもの
下衆の家の板葺きの屋根に雪が降っているの。
また、そんな所に月光が差し込んでいるのも不満だ。
月の光が明るい夜に荷車に出会うの。
そのうえ、そんな車を上等な黄牛が引っ張っているの。
また、年食った女が大きな腹して出歩いているの。
若い夫を持っているのすらみっともないのに、夫が別の女の所に通っているとか言って、腹立ててるなんて……
年食った男が、寝ぼけてもたもたしているの。
また、年食って髭まじりの顔した男が、前歯で椎の実を噛んでいるの。
歯がない女が梅干しを食べて酸っぱがっているの。
下衆女が、紅の袴を履いているの。
この頃、特にそういう事があるようだ。
靭負の佐の夜の巡回姿。
狩衣姿もとてもいかにも怪しそうだ。
人々に恐れられている正装の赤袍は、大袈裟で気味が悪い。
局の辺りをうろつき回るのを見つけたら、見下したい気持ちになる。
「容疑者がここにいるか、どうか」と詰問する。
局に入ってきて、香が焚き染められた几帳に白袴がばさっと掛けられているなど、ひどく無様だ。
ハンサムな貴公子が弾正の弼でいらっしゃるのは、大変見るに忍びない。
宮の中将なんて、全く残念だったなあ。