二月、官の司に (訳)
梅の咲いている時期に、清少納言と藤原行成の交流を書いた段です。
本によってはこの「二月、官の司に」と「頭の弁の御もとより」を別の段として扱っているものもありますが、私は角川文庫版『枕草子(下巻)』の第128段をとります。
この段は省略している部分が多いので、私の解釈で補いました。
2月に、太政官庁で定考(じょうこう)ということが行なわれるらしい。
どんな事だろうか、きっと孔子などの絵をお掛け申し上げて行なうのだろう。
聡明(そうめい)といって、主上にも中宮さまにも見慣れない形の食べ物などを素焼きの土器に高く積み上げて献上する。
頭の弁の御もとから主殿司の官人が、絵か何かのようであろう物を白い色紙に包んで、梅の花がきれいに咲いている枝に付けて持って来た。
絵だろうかと、急いで受け取って見ると、餅餤(へいだん)という物を2つ並べて包んでいるのだった。
添えている立て文には、解文のようで、
進上
餅餤一包み
故事に依って献上 件の如し
別当 少納言殿
と、本文の次に月日を書いて、「みまなのなりゆき」と署名があって、文の末尾に
「この下男は、自分自身で持参しようとしているのだが、昼は容貌がみっともないのがよく見えるから嫌だとして参上しないようだ」と、すばらしくいかにも趣のある文字でお書きになっている。
中宮さまの御前に参上して、ご覧にいれると「なんてすばらしい文字で書いてあるのでしょう。いい趣向だわ」などお褒めあそばして、解文の文はお取りあそばした。
「返事はどうしたらよいのだろうか。この餅餤を持って来た人には何か祝儀を与えるものなのだろう。知っている人がいたらなあ」
というのを中宮さまがお聞きあそばして「惟仲の声が確かにしていたわよ。呼んで尋ねなさい」と仰せになったので、局の端に出て、「左大弁に申し上げます」と中宮職の侍に命じてお呼びすると、たいそうきっちりと身なりを整えてやって来た。
「いいえ、私的な用事です。もしも、この弁や少納言などのところにこのように、物を持って来る下僕などには、なにかすることがありますか」と言うと、
「そのようなことはまったくありません。たんに自分のところに留め置いて、食べます。どうしてご下問あそばすのですか。もしかしたら太政官の役人のところから、手にお入れあそばしたのですか」と左大弁が尋ねるので、「どんなことかしら」と答えて、
返事を、美しく真っ赤な薄様に「自分で持って参上して来ない下僕は、まったく冷淡(れいたん)な奴だと思えるでしょうね」と書いて、美しい紅梅の枝に付けてさし上げた、
すると即座においでになって「下僕参上、下僕参上」と頭の弁がおっしゃるので出たら、
「そのような物は、内容のない歌を作ってこちらへ贈らせた文だと思ったのに、見事に言ったものですね。女性で少しは自分には詩趣があると思っている人は、歌人ぶっているものです。そうでない人こそ、お付き合いしやすいのです。私などにそのようなことを言うとすればその人は、かえって心無い人なのでしょうよ」などおっしゃる。
則光やなりやす(みたいだと)笑って終わった話を、主上の御前に公卿・殿上人がとても多く集まっていたので、頭の弁がお話し申し上げたそうだが、主上が「うまく言ったものだ」と仰せになった、
と、また人が語った(という顛末)は、見苦しい自慢話のいくつかのうちのひとつ(になってしまったの)で、滑稽だ。