「八百卯」閉店
梶井基次郎の小説「檸檬」に登場した京都市の寺町二条にある果物店「八百卯」が、1月26日までに閉店したそうです。
昨年の10月に4代目の店主が急逝され、店を閉じることになったのだそうです。
「八百卯」は明治12(1879)年の創業で、ちょうど今年が130年目でした。
(略)とうとう私は二条の方へ寺町を下り、其処の果物屋で足を留めた。此処でちょっとその果物屋を紹介したいのだが、その果物屋は私の知っていた範囲で最も好きな店であった。其処は決して立派な店ではなかったのだが、果物屋固有の美しさが最も露骨に感ぜられた。
(略)
その日私は何時(いつ)になくその店で買物をした。というのはその店には珍しい檸檬が出ていたのだ。檸檬など極くありふれている。がその店というのも見すぼらしくはないまでもただあたりまえの八百屋(やおや)に過ぎなかったので、それまであまり見かけたことはなかった。一体私はあの檸檬が好きだ。『檸檬』 梶井基次郎著 新潮文庫より引用
このあと主人公は檸檬を買い、「丸善」の山積みにした画集の上に置き、檸檬爆弾により「丸善」が大爆発することを想像しながら京極へ向かいます。
八百卯さんの店頭には、この『檸檬』の一説を紹介したパネルが所狭しとばかりに貼られていました。
9年前に、八百卯さんが併設しているフルーツパーラーに行きました。
フルーツサンドを注文したのですが、このサンドイッチの中身はその日に店頭にある果物で作られているとのこと。柿が入っているのは珍しいという話から、私が奈良在住だと言うと奈良の柿の産地についての話になりました。
あの話し好きな男性が、ご店主だったようです。
そろそろまた寺町通を下りに行って立ち寄ろうと思っていたのに、残念です。
私が京都贔屓になったきっかけが『檸檬』なのですが、この小説の縁の場所は「丸善」も「八百卯」もなくなってしまいました。